⑩番柱に凭れて

Posted By on 2011年5月27日

そこで知り合った仲間とは待ち合わせなんてしない

それは、携帯電話がない頃から今でも変わらない

競馬場の建物は広大なので、柱の番号で施設の位置を示す風習がある

「□□番柱あたりにいつもいますから・・・」

それでok

お互いが儲けると飲みに行ったりする事もあるが

他の趣味や家族の話は殆どしない

ただひたすら【馬】のお話

それだけで終電まで話は尽きない

「じゃあ また 競馬場で逢いましょう」

他の場所で会うことは殆どないCOOLでDRYなお付き合い

いつかまた そこへ行けば

双眼鏡片手に パドックを真剣に見つめる男の

誰かに問いかけているような ひとりごとが聞こえる

⑩番柱から見たゴール

オークスに出走する18頭の乙女たちが

パドックにその姿を現した時だった

降り出したばかりの霧雨が急に横殴りの大粒と化した

朝の清清しい5月の青空が嘘のように

第1R のパドック

屋根のあるここ6階のテラスにまで雨は吹き上げるように入ってくる

すぐ傍で競馬新聞を頭に乗せながら義弟が呟いた「かわいそスっ」

そう3歳の牝馬にはあまりに過酷なパドック 厩務員も馬を宥めるのに必死だ

周回を重ねるたびに雨はどんどん強くなる

あっという間にできた水溜りを飛び越えながら、走って人々がパドックから離れてゆく

ジョッキーが馬に跨る頃 メールが鳴った

名古屋に住む昔からのバンド仲間で馬仲間でもあるATSUYAからだ

「やけに良くみえる馬 いますか?」

歩様に合わせ元気良くクビを振り、いかにも調子が良さそうな⑱番ピュアブリーゼ

人気でも研ぎ澄まされた究極の仕上げに見えた⑨番マルセリーナ

⑪番アカンサスもなかなかいい

そして、この酷い雨の中でも全く動じず、チャカついていない堂々と歩く1頭がいる

うわぁ すっごい雨 中へ入ろう レインコートを・・・

④番エリンコート 

この4頭に絞り、メールを返信

競馬場を後にする頃 レースの時には小降りになっていた雨がまたまた強く降りだした

交差点で信号待ちをしていると 誰かが呟いた

これ全部 放射能じゃねっ!?

入梅前には収束させたい  

はずだったが

全く収まるメドが経たない原発

汚染されたレインコートを車の後部座席に放り投げると ATSUYA からのメールが鳴った

「パドック診断ありがとうございました 新しいテレビ買えます」

About The Author

The Damnedやツネマツマサトシ、The Stoogesなどのカヴァー曲をリハーサルした後、初めてのライブをコイケミュージックホールで行なう。あまりにもメチャクチャで荒々しい演奏のせいで、わずか15分ほどで電源を切られTHE HOODLUMのデビューライブは終わった。そんな原点が今の活力!歯科医師としての情熱に繋がっている。

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